
建築はアメフトを語りうるか?
(記:2022/10/23)
ついに自分も先輩方が書いてきたLast essayを書くときが来たかと思うと感慨深いものがある。内容については様々思いめぐらせたが、成績は別として建築学科の末輩として一応4年間過ごしてきたのであるし、少々強引であるかもしれないが建築とアメリカンフットボール、特にチーフを任されているKickingを結びつけながら書こうと思う。
世界最古の建築書『建築十書』(ウィトルウィウス著)では、建築の3大要素として
“用”(使いやすくあり、材料の特性が活かされていること)
“強”(災害や長期間の使用に耐えられること)
“美”(それ自身が美しく、周囲の環境とも調和すること)
を価値基準として提唱しており、 出版から2000年以上たった今でも建築業界では重要な指標として扱われている。3つの要素のうち1つでも欠けると、建築物としては不完全だ。最近であれば新国立競技場・ザハ案が予算の問題に加えて周囲の景観とマッチしないためにデザインコンペ案が取り下げられたことなどが身近でわかりやすい例だろう。
アメフトにおいても、これら3要素は重要な示唆を与えてくれるのではないか。シンプルで使いやすいPlayほど、Fundamentalの強さがものを言う。いくらAssignment的に優れたSpecial playでも、使うシチュエーションが狭く限定されていれば実行する機会は訪れないかもしれないし、時間をかけて練習する意味もあまりない。創部初のTOP8の舞台に立つと、強いチームはチームの色にあった戦い方、強固な身体、洗練されたAssignmentがやはり揃っているように感じる。
ところで私は4年間ASとして活動してきたわけであるが、2年生の頃ぐらいまではASは「3大要素」で言うと“美”の部分にフォーカスする部門であると思っていた。流れを一気に変えることのできるユニークなPlayを観たり考えたりすることがとても楽しかった。それも1つのASの在り方としてあって良いものであるだろうし、実際アメフトを好きになることができたので間違っていなかったと思っている。
しかし、上級生になって“美”だけにフォーカスしていては勝利につながることはないと気づいた。先述したように、Play designは使いやすくある必要があり、また選手たち自身のレベルに見合わなければいくらきれいなAssignmentでも成功することはないのである。今年度の春オープン戦はそれを象徴したようなものであった。神戸大学戦をはじめ、自分が引っ張っていくべきKickingが試合の流れを悪くしてしまう場面が何度もあった。Assignmentへの固執が招いた結果といっても過言ではない。
春オープン戦が終わり、他校の分析に没頭するようになるとそれぞれのチームカラーが見えてきた。そう感じることができるのはやはりPlay designや試合運びがそこでプレーする選手に合っているからなのだろう。上級生が少なく、下級生に頼らざるを得ない今年度のチーム状況に対して自分がどのようなアプローチをしていくべきかを考える期間が続いた。
夏オフが明けてからは全体練習後に行われる個人練習、いわゆるAfterの時間に毎日参加することにした。ASが何の役に立つのかと言われればまあ特にできることはないのであるが、自分が見ると同じようなPlayでも、選手の感覚ではかなり違う部分があるのだということを知った。Kickでいえば、FGを蹴る際にボールを置くHolderの抑え方や姿勢によってKickerの蹴りやすさがまったく異なる場合があるそうだ。この発見は前述の“用”の分野におけるものではあるが、Signのかかりやすさ、いわば“美”の部分にも影響してくる要素である。Holderが不安定なチームはやはりFGの成功率にも影響を及ぼしている。このように、実際に選手と一緒になって練習に取り組むことで見えてくるものはScoutingにも役立つのだということを肌で感じた。
秋リーグ戦が始まるという時期には4年生としてどのような結果を残したいのか今一度議論した。試合の中で1Playでも、1つの行動でも多く『下剋上』をすべくKickingには何が求められているのか改めて考えていると、”用”、”強”、”美”のどの要素にも分類しがたい心理的な要素も大切だろうという結論に至った。絶対に自分たちより格上である相手に対して気後れするのではなく、「何かやってやろう」という気持ちだけで大きく結果が変わるのがKicking gameの特徴である。早稲田大学戦の1yd puntや東京大学戦のSpecial onside成功は決して技術面や戦略面の『下剋上』に限らず、「ここまで練習してきたのだ」という心理的な要素が確実に影響している。これからは相手にとってさらなる脅威となり圧倒的な心理的優位性を持つKicking teamを作り上げていきたい。
幸いなことに、今年度は才能があり努力も怠らない下級生のSpecialistにも助けられ、秋リーグ戦のKick unitは徐々に安定してきているように感じる。しかし、現在はOffense・Difense・KickそれぞれのUnitにそれ以上の活躍が求められている環境にいることは間違いない。現状に甘んじることなく、秋リーグ戦最終節が終了するその瞬間まで、あるいは来年度以降もよい慣習として続いていくような変化を巻き起こしていきたいと思っている。
このチームを支えてくださる方々への感謝はあえてこの場では記さないこととする。今後の限られた試合において「勝利」という結果で自分たちの感謝の思いを伝えるべく、残り少ない日々の練習で『+1』していくことを誓って結びとしたい。